中田喜文の「エンジニア。データからはこう見える!」

Vol.15 多様性のアメリカ④「アメリカの技術者は協調的?」

同志社大学STEM人材研究センターの中田喜文です。
今回は、アメリカの技術者についての連載の最終回です。
そして、今日のテーマは「協調性」です。

我々が持つアメリカ人のイメージとは何でしょう。多くの人が思い浮かべるのは、彼らの独立心の強さ、公的な枠組みを嫌い、個人と選択の自由を大切にする価値観、でしょうか。今回のコロナウイルス感染症の拡がりの中でも、アメリカ人の間でマスクをつけたり、ワクチン接種を強制したりすることに対する強い反発があることが頻繁に報道され、アメリカ人に対するこれらのイメージを改めて強化したのではないかと思います。

さてそこで今回のクイズです。アメリカのソフトウェア技術者の中で、自分は十分な協調性があると思っている人の割合はどの程度でしょうか。正解を以下の5つの選択肢から選んでください。

①10%
②30%
③50%
④70%
⑤90%

勿論今回もヒントを提供します。少し前の調査ですが、統計数理研究所が行った「日米欧7か国国際比較調査」の中で、ソフトウェア技術者のみを対象にしたものではありませんが、意思決定において“何らかの原則に基づくことに重きを置く人”と“他人との調和をはかることに重きを置く人”のどちらを好ましいと思うかを問いています。

この問に対し、日本人の68%は、“他人との調和をはかることに重きを置く人”を好ましいとしています。他方、個人主義的と思われているアメリカ人の47%も、“他人との調和をはかることに重きを置く人”を好ましいと考えています。アメリカ人でも、ほぼ半数の方が、協調的な人が好ましいと考えているわけです。

 

意外に高い割合ですね。ちなみに、何らかの原則に従い意思決定をする人が好ましいと考えるアメリカ人は、48%でした。
さあ、この数字を参考に正解を選んでください。

筆者の研究チームは、2015年末から2016年の初春にかけて日、米、中、独、仏5か国のソフトウェア技術者に対して、彼らの働き方や仕事に対する考え方に関するアンケート調査を実施しました。その詳細な結果は公開されていますので、興味のある方はそちらを参照ください※。同調査の中で、自分自身の行動特性についての自己評価も尋ねました。
以下のグラフは、協調性についての5か国ソフトウェア技術者の回答結果を表したものです。

※参照:情報処理推進機構 https://www.ipa.go.jp/sec/reports/20161125.html

出典:筆者作成

如何ですか。「協調性を十分備えている」と考えるアメリカのソフトウェア技術者の割合は54.6%です。ですから、③50%が最も近いので、正解は③ですね。しかし、「ほぼ備えている」と考える方も含めると、協調性を持つと考える技術者の割合は、36.2%を足して90.8%となり、正解は⑤90%となります。今回は採点基準を甘くして、③と⑤のどちらを選んだ方も正解とします。

私は今回のグラフを見ながら技術者は他の職種とはかなり違った特性を持った職業集団なのでは、と改めて考えさせられました。お気づきの通り、ドイツもフランスも、アメリカとほぼ同水準の高さです。そして、中国と日本が類似して、相対的には低くなっています。この理由については、次回以降の3か国の技術者に関するコラムで取り上げる話題も読んでいただきながら、一緒に考えていきましょう。

同志社大学STEM人材研究センターの目的の一つが、「科学技術の領域で活躍する方々がより創造的に活躍できるための環境と施策の構築に資する」研究を行うことです。日本の科学技術発展のためにも、多くの技術者が適材適所で活躍できる環境作りに寄与できる研究を行っていきたいと思います。

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