宮川雅明の業界一刀両断

第15回カタナ・パフォーマンス 宮川雅明の業界一刀両断!  

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1. イノベーションの日常化とマニュアル化

米国ではイノベーションはマニュアル化できると考え、すでに多くのフレームワークが提示されている。経営学に限らず、多くの学問はメタアナリシス、つまり実証研究だ。多くの事例の中から共通する要素を発見し、その要素(共通言語や手順)で今後も発生した事象も説明可能となれば、すなわちそれは理論となる。マニュアル通りにやれば誰でもイノベーションが起こせるというわけではないが、少なくとも「こういった考え方、プロセスを踏まないと成功しない」というある種の条件のようなものが見えてきている。つまりある種のコード(規律)である。それだけ米国ではイノベーションが身近なもの、日常的なもの、文化になっているということだ。残念ながら、そういった考え方が日本で日常的になっていると自信をもって言うことはできない。

2. コストダウンからイノベーションまで

イノベーションに関する定義や考え方も様々である。そこでイノベーションを性質に応じて位置づけてみた。

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縦軸は、企業にとっての新しさのレベルとした。一方、横軸は市場(顧客)にとっての新しさである。『コストダウン』にも新しい技術は欠かせないが、例えば市場から見たベネフィットが燃費向上であれば、新技術であってもコストダウン戦略の一つとして位置づけられる。『リポジショニング』は、例えば赤ちゃんの流動食技術を高齢者用として転用する、といったことであり、同じ機能のものを他の市場へ展開することだ。『単純化による破壊的イノベーション』とは、労働コストの安い地域へ移転するといったことや、プロセスを極めてシンプルなものにするといった考え方だ。ここでいう「極めてシンプル」とは、5ドルPCの『ラズベリーパイ・ゼロ(Raspberry PiZero)』のような商品だ。基板上に電子部品がむき出しになった製品でケースはお菓子箱にでも入れてやればよく、キーボードやモニターなどはもちろん付属していない。キーボードはすでに家庭内に余ったものがあるはず、テレビくらいあるだろうからモニターにはそれを使ってくれ、という割り切った製品だ。しかし性能はiPhone4並とそこそこで、プログラムを書き換えてゲームを楽しむことができ、昨年のクリスマスのプレゼント用として大ヒットした。『市場にとって新しい』軸の、『文化レベル』とは、多くの人に当たり前に浸透し、生活様式が変わるようなレベルのものを示す。スマホは電気のない地域にまで普及し、それまでになかった決済機能を提供するまでになっている。これは文化的・革新的イノベーションの代表といえるだろう。

3. 技術とイノベーションの関係

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技術革新はイノベーションの要素の一つであって、イノベーションそのものを意味するものではないということは周知である。MITのエド・ロバーツ教授は、『イノベーション=発明+商業化』と定義している。スマホに欠かせない液晶技術、高画質小型レンズや音声認識技術はスマホの誕生前からすでに存在していた。しかし、それだけではイノベーションは起きない。スマホという商品になって初めて多くの生活者の中に普及することになる。

これを戦略ポジションでみると戦略特性が見えてくる。例えば、既存ビジネスモデルに新技術を持ち込めば、代替需要および買い替え需要を喚起し、新ビジネスモデルが出てこない限り高シェアを獲得することができる。ただし、技術開発のための時間と投資を要する。『新技術/新ビジネスモデル』に該当するのは遺伝子治療のような市場であり、『既存技術/新ビジネスモデル』がイノベーションだ。バリューチェーンを変え、生活様式を変えていくためには多くの企業とのコラボレーションが必要であり、製品サービスそのものが社会から共感されるものでなければならない。また、その製品やサービスは多様な機能的ベネフィットに留まらず、心理的ベネフィットを提供するものでないといけない。そうした意味において、『イノベーション=発明 + 商業化』なのである。

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4. 起業家のタイプ

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イノベーションのタイプを起業家のタイプで区分すると図のようになる。SME (Small & Medium Enterprise) はスモール企業タイプである。市場は特定の地域であり、キャッシュを稼ぐことに主眼が置かれることが多い。サプライチェーンの一部であり、他企業から委託されることをよしとする。これに対し、IDE(Innovation-DrivenEnterprise) タイプは生活様式を変えるようなことを考えているので、対象とする市場は広い。よって単独ではできないので必然チームが必要となる。イノベーションは個人では起こせないのだ。冒頭、米国ではイノベーションが日常化されていると述べたが、仮に「良い社会とは何か」と問われたら、私自身が産学両面で新規事業や起業を職務としているからかもしれないが、「チャンスの多い社会」と答えたい。IDEタイプの起業家を多く輩出するのは、起業文化が必要だ。それは同じ組織の中に、同じ街に起業した人がいるということだ。

 

 

miyagawa

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