宮川雅明の業界一刀両断

第14回カタナパフォーマンス・宮川雅明の業界一刀両断!

リスクを理解する

■リスクとは何か   
多様な不祥事が起きている。そこでリスクについて少しだけ理解を深めてみたい。
Pinchつねる、困難
Danger危ない
Peril事故
Hazard事故発生要素
Uncertainty不確実
Possibility可能性
Accident偶発事故
Contingency不測
Crisis危機
Threat脅威
Warning警告
Unsafe安全でない
上図にリスクに近しい言葉を挙げてみた。何とも多い。ではリスクのもともとの意味は何だろうか。この言葉の語源はイタリア語で『Risicare』、「挑戦する、岩間を航行する」という意味である。経営の世界では「不確かさの影響」と定義している。この定義はリスクマネジメント手法に関する国際規格であるISO31000 に記述されており、一般的には「事故の可能性」と理解されている。  
なお、ここでいう可能性は、「わからない」という状態ではなく、「XX%の確率でこうなります」と説明できる状態を意味する。見えないものや分からないものは、対象や原因も分からない恐ろしいのであって、それらを見えるようにすることが肝要だ。リスクマネジメントとは、あらゆるリスク要因を視覚化するマネジメントといえる。
シンプルにすると図のようになる。

15

さて、リスクとは事故の可能性であり、不確実なものをいう。『不確実』は英語では『Uncertainty』である。実際に事故が起こってしまったら、それはペリル(Peril )、つまり事故となる。英語では『Event』という表現することもある。事故が起きて何かしらの損害が発生した場合、それはロス(Loss:損失)となる。ゲームや映画の作品『バイオハザード』シリーズで子供でも知る言葉になったハザード(Hazard)という言葉は、事故発生要素である。例えば木造家屋は火事になりやすい。また火事になった場合、その被害は大きい。つまり、ペリルの原因であり、発生してしまうとそのロスも大きくなる要素をハザードという。

 

■エクスポージャーとリスク・チェーン   
もう一つ、リスクマネジメントで重要な言葉がエクスポージャーである。エクスポージャーとは「晒されている」という意味であり、カメラなどでは光の露出を意味するが、この場合は危険に晒されていることを指す。例えば、冬の凍結した路面は事故が起きやすく、被害も大きくなる可能性のあるハザードである。しかし、その道路を閉鎖してしまえば、ハザードは存在するがリスクは消える。よってロス(損失)も発生しない。現実的には、エクスポージャーが存在しなければリスクとは認められない。

 

151

リスクの流れを図にすると次のようになる。これをリスク・チェーンという。ここで2 つのことを補足しておきたい。
まず、ペリルはそのまま損失の原因になるため、危険な状態がどのように損失に繋がるかを理解することがリスク評価の目的だということである。ハザードを認識してもそれはリスクの一部の性質を把握しているにすぎない。
もう一点は、リスクマネジメントというと統計的要素の濃いプロセスと思われがちであるが、状況によっては直感的、定性的な分析も有効であるということだ。また、行動心理的アプローチもある。人的要因(過誤、不注意、悪意、訓練不足、認識・理解不足)である。

 

■ 7 つのリスク環境とCOCA モデル   
リスクの環境的源泉は以下の図で示すように7つある。これらの環境的源泉に対し、実際にリスクをもたらすものは法的な義務であったり、各種の契約であったり、合意(法律の範疇でない当事者間の非公式な取り決め)であったりと、企業独自のコミットメントが存在することになる。エクスポージャーへの媒介といってもよい。これを『COCAモデル』という。契約(Contracts)、義務(Obli gati on)、コミットメント(Commitments)、合意(Agreements)の集合体がエクスポージャーそしてリスクへと導くことになる。

 

152

 

■5つのエクスポージャー   
エクスポージャーにはどのような種類、または領域があるのかという点も興味深い。通常、右の図に示した5 つのエクスポージャーが考えられる。  
企業などの不祥事が起きると第三者委員会などによって原因の究明が行われ、社外取締役などを組織化するといった対策が取られている。しかし、そうした取り組みはかなり以前から行われてきたはずだ。 問題の発生個所のみをとらえて対策を打ったとしても、他の形で異なるペリルが発生するかもしれない。つまりリスクマネジメントとして十分とは言えない可能性がある。それは、リスクマネジメントそのものがトータル・リスクマネジメントであるはずだということを問うている。蛇足ながらもうひとつ、付け加えておきたい。リスクは「不確かさの影響」と定義されている。つまり、マイナスの影響だけでなくプラスの影響についても考える必要がある。リスクマネジメントにおいて、マイナス影響への対応は本来の目的の半分であり、後の半分は成長戦略のためのものである。
※注:執筆にあたり『MBA のリスク・マネジメント』(PHP 研究所 翻訳:宮川雅明)を一部参考にしました。

 

154

 

 

miyagawa

合わせて読みたい

宮川雅明の業界一刀両断 一覧へ