渋谷和宏の経済ニュース

第16回渋谷和宏の嫌でもわかる経済ニュース


まずは仮想通貨とは何なのか、おさらいをしておこう。ビットコインやNEMなど世間を賑わしている仮想通貨とは一言で言えば、インターネットの中だけで流通している「お金もどき」あるいは「お金のようなもの」だ。その種類は1000以上あるとも言われている。
 今「もの」と書いたが、紙幣や硬貨のような形があるわけではない。暗号化されたある特定のデータをインターネット上でお金としてやりとりさせている。

電子マネーとどう違うの?

 では仮想通貨はSuicaやnanacoなどの電子マネーとはどう違うのか。電子マネーはお金のやりとりを便利にするための仕組みで、お金を日本なら円を電子データに置き換えたものだ。1000円で購入した電子マネーの価値はあくまで1000円で、この価値は為替が円安になろうが円高になろうが変わらない。1000円をチャージしたSuicaで乗車できるのは常に1000円分だ。
 一方、仮想通貨は円を電子データに置き換えたのではない。特定の電子データを「お金として扱おう」と決めたものだ。皆が欲しがれば価値が上がり、円やドルに対して高くなる。逆に皆が欲しがらなければ価値が下がり、円やドルに対して安くなる。
 それにしても、なぜ仮想通貨が生まれ普及していったのだろうか。円やドルのような法定通貨に加え電子マネーまで流通しているのだから、それで十分ではないかとも思えてくる。
 
仮想通貨の起源はサトシ・ナカモトと名乗るエンジニアが2008年にネット上に発表した論文にある。そこには現在の仮想通貨の考え方や仕組みが全て書かれていた。
 そしてこのサトシ・ナカモト氏と仲間のエンジニアたちが最初の仮想通貨であるビットコインを創り出し、少しずつ賛同者の輪を広げていった。その原動力は国境を軽々と越えていくビットコインの利便性、国際性だった。インターネットにつながっていれば国や地域を選ばず世界中で使える。Suicaやnanacoを使えるのは日本だけなので、これは電子マネーとの決定的な違いだ。
 しかも決済や送金は円やドルなどと比べてはるかに簡単で時間もかからない。例えば日本に住んでいる両親がアメリカに留学している子どもに仕送りしようと銀行を利用した場合、円をドルに交換する為替手数料と送金手数料とで数千円が必要で、しかも子どもが受け取れるのは翌日だったりする。これに対してビットコインを使えば手数料は1円もかからず、10分ほどで送金できる。
 サトシ・ナカモトたちはネット空間を活用し、円やドルのような既存の法定通貨の限界を超える理想の国際通貨を創り出そうと構想、実行したのだとも言えるだろう。
 付け加えればサトシ・ナカモト氏はかつて一度も表舞台には登場しておらず、 本名なのか、そもそも個人なのかどうかも含めて正体はいまだに分かっていない。

投機対象に祭り上げられた不幸な歴史

 ところが、そうした当初の仮想通貨のあり方を一変させるかのような出来事が2013年以降に次々と起きる。
 まずは地中海の小国キプロス共和国の経済危機だ。ギリシャの財政危機の影響でキプロスの銀行に多額の不良債権が発生し、銀行破綻によって預金などの金融資産が失われてしまったり、キプロス通貨が暴落して財産が目減りしてしまったりする不安にとらわれた富裕層が、自らの財産を守ろうと競うようにビットコインを購入した。
 この“特需”によって、2010年には1万ビットコインがピザ2枚ほどの価値しかなかったビットコインの価格は100倍、1000倍へと一気に跳ね上がり、さらに価格上昇の流れに乗り遅れまいとする新たな投資家を巻き込んでビットコインバブルの様相を呈していった。(ちなみに「1万ビットコインでピザ2枚」は初めてのビットコインによる買い物だと言われている。2010年5月17日、フロリダのエンジニアが「1万ビットコインでピザを2枚買いたい」というリクエストをネットの掲示板に投稿し、5月22日になってやっと取引が成立したと言う。)
 
翌年、今度は中国政府がビットコインバブルを結果的に後押ししてしまう規制を打ち出した。自国通貨である元安に直面した政府は、それ以上の元安を食い止めるため、中国国民に対して元からドルへの交換を制限したのだ。
 これが中国人によるビットコイン購入を爆発的に増やしてしまう。元安による財産の目減りを危惧した富裕層が抜け道として、これまた競うように元をビットコインに交換したのだ。
 その後、何が起きたのかは読者の皆さんもよくご存じの通りだ。中国当局が昨年、国内の仮想通貨交換所を閉鎖してからは、日本が仮想通貨バブル・投機ブームの中心地となり、中には億円単位の売却益を得た「億人」まで現われた。
 そこへ不正アクセスによる仮想通貨交換業者コインチェックからのNEM流出事件だ。失われた金額は日本円にして約580億円、コインチェックのずさんなセキュリティー対策や希薄な投資家保護への意識が浮き彫りになり、かつそれらがコインチェックだけの問題ではなかった仮想通貨交換業者の実態も明らかになり、仮想通貨への投機熱は一気に冷めてしまった。
 ビットコインをはじめ仮想通貨の価格は暴落、ビットコインの時価総額は今やピーク時の半分以下の水準だ。
 こうした現実を踏まえて、今年2月13日、日銀の黒田東彦総裁が国会での答弁で仮想通貨について「仮想資産と呼ぶべきではないか」と発言し、仮想通貨が決済手段として広がっていくことに対しては懐疑的な見方を示した。

仮想通貨はやがて消えるのか?

 今後、仮想通貨はどうなっていくのだろうか。一時的なバブルのあだ花としてやがて消える運命なのか。あるいは既存の法定通貨の限界を超える次世代の通貨として我々の社会に定着するのだろうか。
 まず投資・投機の対象としては、1000以上あるとも言われる仮想通貨のかなりの種類が淘汰されていくに違いない。仮想通貨の価値は元来、極めて不安定で乱高下しやすい。円やドルなどの法定通貨は、中央銀行である日銀やFRB(米連邦準備制度理事会)が発行枚数を制限するなど価値を担保してくれている。
 一方、仮想通貨の価値を決めるのは「この仮想通貨には価値があるとする賛同者たちの総意」もっと言えば「共同幻想」に過ぎない。そうした「総意」あるいは「共同幻想」はちょっとした風向きの違いで雲散霧消しかねないリスクを常に抱えている。最終的に生き残れる仮想通貨はもしかしたらごくわずかかもしれない。
 では買い物などの決済や送金の手段としてはどうか。意外に聞こえるかもしれないが、この日本では定着する可能性があると筆者は見ている。仮想通貨の利便性、国際性はとりわけ日本ではメリットが大きいからだ。
 以前にもこの連載で指摘したように日本は世界に冠たる現金決済の国で、電子マネーなどキャッシュレス決済の割合は相対的に低い。買い物などに占めるキャッシュレス決済の割合はイギリスでは64%、スウェーデンでは56%、アメリカでは50%、中国では48%に達するのに対して、日本では26%に過ぎない。
 こうした現状は現金決済に慣れた私たちとっては当たり前でも、キャッシュレスに慣れた外国人旅行者には不便やストレスの種に他
ならない。そんな日本のような国では、両替の必要がない仮想通貨は不便を補う格好の手段だ。実際、外国人の来店客が多いビックカメラは昨年7月から全店で、ビットコインでの決済を可能にした。10月にはVISAブランドのプリペイドカードへの入金をビットコインでもできるサービスが始まり、ビットコインを使える店舗数は数百万規模に拡大している。
 仮想通貨による決済の広がりは、実は「2020年に訪日外国人旅行者4000万人」の目標を掲げ、観光立国の実現を目指す政府の成長戦略とも符合するのだ。
 さらにメガバンクである三菱UFJ銀行は今年度中の発行を目指して独自のデジタル通貨MUFGコインの開発を進めている。MUFGコインはビットコインなど他の仮想通貨と同じようにアプリを使えば瞬時に送金できる一方で、「1コイン=1円」と交換レートを固定している点では電子マネーの性格も持つ。同行は近い将来、MUFGコインの技術的な仕様を他の銀行にも公開する予定で、メガバンク主導、多くの金融機関を巻き込んだ強力な仮想通貨に育つ可能性がある。
 そして同行の動きもまた観光立国、キャッシュレス経済の実現を目指す政府の方針と軌を一にするものであるのは言うまでもない。
 メガバンク主導で仮想通貨を普及させ、ある段階で政府・日銀がその発行量をコントロールすることで価値が毀損したりしないようにする─政府・日銀は近い将来、そんな日の丸仮想通貨を誕生させるつもりなのかもしれない。

shibuya

(2018.04.05)

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