渋谷和宏の経済ニュース

第22回渋谷和宏の嫌でもわかる経済ニュース

業種・業態の垣根を越えて、1人客の争奪戦がいよいよ激しくなってきた。外食や小売り、レジャーの「お一人様ビジネス」がますます進化・多様化する一方で、家電のようなモノ作り企業の中にも「お一人様」を意識する動きが出てきている。「お一人様頼り」が企業の間に広がっていると言ってもいい。

ファミレスも「お一人様」をターゲットに

外食では1席に1つずつロースターを設置した1人向け焼肉店や、1席に1つずつ鍋を用意した1人向け鍋料理店などが登場しているが、ついに家族を主なターゲットにしていたファミレスチェーンも「お一人様」争奪戦に参加した。
 すかいらーくホールディングスはファミリーレストラン「ガスト」で1人客の席を増やす改装を進めている。昨年は都心部の駅前にある店舗を中心に50店舗程度で改装を実施した。それまで5席だった1人席を20席超へと大幅に拡大した東京・赤坂見附店のように、1人用の座席を一気に約4倍に増やした店舗もある。その際に重視したのは1人客のプライバシーと利便性だ。他人の視線が気にならないように隣の席との間に衝立を設け、パソコンで仕事したり、スマホを充電したりできるようにコンセントも用意した。
 定食店「大戸屋ごはん処」を展開する大戸屋ホールディングスも昨年6月、小田急町田東口店(東京都町田市)を全面改装し、1人客の席を約2倍の20席近くにまで拡充した。
 しかも、ただ席数を増やしただけでなく、1人客用のソファ席には手荷物を置けるスペースを設け、1人客が向かい合って座るロングテーブルには、座る位置や高さをずらして正面に座っても視線が合わないようにするなど、様々な工夫を盛り込んだ。
 結果は上々で女性などの1人客を中心に客数は1割超伸びたという。大戸屋ホールディングスでは今後、他店舗への展開も検討している。

進化するカラオケ店の「お一人様」向け新サービス

カラオケ店でも、1人でカラオケルームを借りて歌う1人カラオケ需要の拡大を追い風に、「お一人様」向けの新たなサービスを提供する企業が登場している。
 名古屋市を中心に全国約150店舗で1人客用のカラオケルームを設けた漫画喫茶「快活CLUB」はその代表だ。
 同社が打ち出した「お一人様」カラオケは単なる1人客用ではない。プロの歌手が使うようなコンデンサーマイクと、実際にレコーディングもできる設備を用意して、お一人様需要の深掘りを狙う進化形だ。
 同店の利用者で、若い頃は歌手を目指していたという名古屋市内の男性(70)は言う。「週に1、2 度は歌いにくる。実力を磨きたい時は1人に限る。新しい曲を歌ってみてCDに録音し、家に持ち帰って反復練習するんだ」
「お一人様」カラオケの進化形はそれだけではない。「歌わない“お一人様”カラオケルーム」も登場した。「ビッグエコー」は全国約50店舗で、空き室が多い平日の開店時刻から午後7時まで、通常のカラオケルームを仕事場として提供する「オフィスボックス」を展開し始めた。利用者には好評で、外回りの途中に利用した会社員男性(35)は、「喫茶店だと人の話し声が気になるし、漫画喫茶だと仕事をサボっているような気分になる。カラオケボックスで仕事するという発想はこれまでなかったけれど、人目を気にせず1人で落ち着ける」と言う。

小売りに続いて家電メーカーもお一人様に注目

小売りも「お一人様」頼りをさらに強めている。
 ファッションビルのパルコは昨年春以降、池袋店や名古屋店など全国9店舗の改装を順次進めている。主力のファッション分野に加え、成長を期待できる飲食や美容関連のテナントの強化が狙いで、それを実現するためのキーワードは「お一人様」だ。
昨年3月に全面リニューアルオープンした静岡店(静岡市)では、1人用のカウンター席などを多く設けた1人鍋の店「一人鍋しゃぶしゃぶ すうぷ」がテナントとして入居、同月には池袋パルコにエステサロン「じぶんdeエステ」が開業した。
「じぶんdeエステ」は肌をきれいにするマシンなど、様々なエステティックマシンが個室に用意されていて、それを自由に使って自分1人でエステをする定額制のセルフエステサロンだ。
 さらに昨年11月、2016年の一時休業から約3年の建替期間を経て全面リニューアルオープンした渋谷店(渋谷パルコ)にも、1人席を充実させたジンギスカン専門店「松尾ジンギスカン」が開業した。狙うのはビジネスや女性の1人客など、新たな顧客層の獲得だ。「お一人様」ビジネスはモノ作り企業にも広がっている。
 シャープは昨年11月下旬、仕事が忙しい単身者や少人数世帯の需要を見込んだ自動調理鍋「ヘルシオ ホットクック」の新機種を発売した。具材を入れるだけで加熱具合や混ぜ加減を自動で調整し、カレーのような煮込み料理など様々なメニューを調理できる機能は従来品と変わらないが、容量をそれまでの1.6リットルまたは2.4リットルから、「お一人様」でも食べきれる1リットルへと思い切って縮小した。
 シャープは単身者という新たな顧客層を掘り起こすことで、2019年9月時点で20万台だったシリーズ累計販売台数を、2023年度に100万台へと大きく伸ばす計画だ。

「お一人様」消費は数少ない成長分野

なぜこれほど多様な業種・業界が「お一人様」需要の開拓に向けて進化を競っているのだろうか。結論から言えば、1人客の開拓は数少ない消費の成長分野だからだ。まず単身世帯つまり1人暮らしの世帯自体が増加している。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計」(2018年推計)によれば、2000年に1291万世帯だった単身世帯の数は、高齢化の進展、未婚率の上昇によって2020年には1934万世帯と650万世帯近く増える見込みだ。2040年にはさらに1994万世帯に達すると予測されている。
 それに伴って総世帯数に占める単身世帯の割合も2000年の27.6%から2020年には35.7%、2040年には39.3%と増えると見られている。とりわけ若い単身者の多い東京都では単身世帯の割合が高く、総務省統計局によれば2015年1月時点で45%に達している。
 加えて単身世帯は2人以上の世帯に比べて1人当たりの消費支出が多い。調査会社のエヌピーディー・ジャパン(東京・港)によれば、外食や、総菜などいわゆる中食への1人当たりの支出額は、単身世帯では2人以上の世帯の1.5倍に達するという。しかも「お一人様」はファミリー客に比べて店舗での滞在時間が短いので、回転率を高めて客数を増やせば店舗の売り上げ増につながる美味しい存在だ。
 さらにライフスタイルの変化や趣味・嗜好・価値観の多様化、職場などでの濃厚な人間関係を避けたい人たちの増加も、「お一人様」消費の背中を押しているはずだ。
 矢野経済研究所が昨年4月下旬に発表した「おひとりさま関連16市場」の調査によれば、2017年度の「おひとりさま外食市場(1人来店客の利用金額)」は前年度比4.5%増、「おひとりさまカラオケ」利用者は前年比6.7%増の320万人に達した。
 この調査からは、食事もカラオケも1人の方が気を使わないで楽だという人が増えている傾向がうかがえそうだ。
「お一人様」ビジネスは今後も業種・業界の垣根を越えていっそう進化・多様化していくだろう。だとすれば、今後は消費という経済活動に携わる多くのビジネスパーソンが「お一人様」ビジネスと何らかの形でかかわることになるだろう。
 これまでは友人・知人・同僚らと楽しんでいたレジャーや商品などで「お一人様」需要をとらえられるコトやモノはあるのか?あるとすれば、どのように提案したら需要を掘り起こせるのか?1人でストレスなく楽しんでもらえるためには、予約から決済までどのようなプロセスを構築したら良いのか?その場合のユーザーインタフェースをどうするか?
 そんな人間理解が今後は商品・サービス開発担当者のみならず、開発や販促を支援するシステムの設計者らにとっても、ますます重要になっていくに違いない。

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