渋谷和宏の経済ニュース

第10回渋谷和宏のいやでもわかる経済ニュース

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写ルンです、ラジカセ、アナログレコード

「懐かしさ」が若者にも売れる理由は?

「ノスタルジックマーケティング」とは、懐かしい昭和の製品を蘇らせたり、復古調のデザインを取り入れたりするマーケティングの手法だ。数年前から企業の商品開発に盛んに取り入れられるようになり、今やノスタルジックマーケティングによるヒット商品が次々に生まれている。

例えば─あの「写ルンです」が若者に人気急上昇

レンズ付きフィルムの先駆けとなった富士フイルムの「写ルンです」をご記憶の読者は少なくないだろう。フィルムが入った紙箱にレンズとシャッターが付いており、写真を撮り終えDPE店に持っていくと、撮った写真だけが手もとに戻り本体は回収されたので「使い捨てカメラ」などと呼ばれた時代もあった。  
発売は1986年、30年前に誕生したアナログ製品だが、今、この「写ルンです」が主に若者の間で人気を高めている。

富士フイルムは、カメラの主流がアナログからデジタルに変わってからも、東京・原宿にある直営の店舗で細々ながら「写ルンです」の販売を続けていた。その売れ行きは2、3年前までは月に20本程度だったが、昨年あたりじわじわと伸び始め、昨年12月には月100本に達した。  
その勢いに乗って今年4月、初代とデザインがそっくりの「写ルンです30周年アニバーサリーキット」を発売したところ人気が一気に沸騰し、梅田ロフト(大阪市北区)では店頭に並べた20本が3時間で売り切れた。梅田ロフトの担当者によれば「買い求めた人の多くは10~20代の若者」とのことだ。今年に入ってからも好調は続き、カメラ映像機器工業会によれば売り上げは前年比2桁増で推移している。  
若者たちは「写ルンです」のどこに魅力を感じているのだろうか。
愛用する若手写真家は言う。「粒子が粗く、精細さにも乏しいが、柔らかな空気感はデジタルカメラにはない魅力だ」と。

「写ルンです」の人気が再燃した発火点は実はネットだった。デジタルに飽き足りない若手の写真家たちは2、3年前あたりから「写ルンです」で撮った写真をツイッターやフェイスブック、インスタグラムに投稿し始めた。それらの写真を見た人たちがアナログならではの懐かしい風合いに魅力を感じ、「私も使ってみたい」と次々に手を伸ばすようになっていったのだ。  
ソーシャルメディアによってネット上に拡散した「アナログならでは」「懐かしい」というキーワードが「写ルンです」のヒットにつながったと言えるだろう。

ビックカメラがあのラジカセを目玉商品に

ノスタルジックマーケティングの成功例は「写ルンです」だけではない。  
1970年代から80年代にかけて爆発的にヒットしたラジカセ─ラジオとカセットテーププレーヤーの機能が一体になった懐かしい音楽プラットフォームの人気も再び盛り上がっている。

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調査会社のGfKジャパンによると、ラジカセなどカセットテープレコーダーの家電量販店での売り上げは2015年に前年比21%増となり、今年はそれをさらに上回る勢いで売れているという。こうした動きをとらえてビックカメラは今春、ラジカセとカセットテープをオーディオ商戦の目玉商品の一つに位置付け、全店に専用のコーナーを設けて、これまでは別の場所で売っていたラジカセとカセットテープを並べて売り始めた。

家電量販店だけではない。東京都内には中古ラジカセとカセットテープの専門店が次々に誕生している。また大阪・梅田ロフトは今年4月下旬から5月中旬まで、1970年代、80年代のラジカセ100点を展示した「大ラジカセ展」を開催、多くの来場者を集めた。  
「Apple Music」のような音楽の配信サービスの普及でCDなどのパッケージメディアの売り上げが激減してしまった今、なぜラジカセなのか。  
一時期、全く顧みられなくなったラジカセに 再び脚光が当たり始めたのは2012年以降だった。団塊の世代(1947~49年生まれの約800万人)が2012年以降、続々と65歳になり現役から完全に引退していったのが一つのきっかけだ。引退した彼らはかつてカセットに録音した音楽を再び楽しみたいと、ネットオークションなどでラジカセを落札するようになった。  
それが20~30代の目にも留まった。ラジカセは団塊世代にとってはノスタルジーの対象だが、リアルタイムで知らない若者にとってはクールな商品に映った。「つまみやボタンがゴチャゴチャ付いているメカっぽさがイケている」「液晶画面で操作する今のオーディオ機器に比べて、ボタンやつまみが機能ごとに付いていて直感的に操作できるのが新鮮」と若者もまたオークションに参加したのだ。  
これを受け、家電各社が再びラジカセの新製品を本格的に発売するようになり、人気はシニアから若者へと広がっていった。さらにAMラジオの番組をFM放送でも聞ける「FM補完放送」(ワイドFM)の放送開始も追い風になり、ラジカセの買い替え需要を生んでいる。ビックカメラによれば「かつてはシニアが中心だったが、今では20代など若い世代の購入が増え全体の3割に達している」という。シニア層の行動が若者の関心に火をつけ、ラジカセのヒットに結び付いたのだ。

オーディオの分野ではアナログのレコードとプレーヤーもリバイバル需要に沸いている。CDに押されて2009年には年間約10万枚にまで落ち込んでしまった国内のレコードの生産は「アナログならではの温かみのある音がいい」という再評価とともに再び上向き、2015年には70万枚近くにまで回復した。これを受けて昨年以降、ティアック、オンキヨーなどのメーカーが次々にレコードプレーヤーの新商品を投入、購入者はシニアから若者まで幅広い層に広がっている。  
売れているのはかつて一世を風靡した懐かしい製品ジャンルだけではない。ハイテク製品に復古調のデザインを取り入れて成功したヒット商品もある。2011年3月の発売以来、現在に至るまで息の長い支持を得続けている富士フイルムのコンパクトカメラ「X100」シリーズはその代表だろう。  
高性能センサーなど最先端の技術を導入した高精細のデジタルカメラながら、昔懐かしいフィルム式小型カメラをほうふつとさせるデザインで、古典的な印象のファインダー(のぞき窓)まで付いている。発売当初は店頭小売価格が約13万円とコンパクトカメラとしては高額ながら、初年度の世界出荷数は計画を2割上回る12万台に達した。国内の購入者の6割は40歳以上だったが、一方で復古調のデザインを「かわいい」と評価して買っていく若い女性も少なくなかったという。

なぜ「懐かしい」が売れるのか

なぜシニアのみならず若者にも「懐かしい商品」が売れるのだろうか。  
消費者の厳しい選別眼にかない、一時代を築いた商品にはもともと時代や世代を超えた普遍的な魅力があるのだろう。そうした魅力にいち早く気づいた若者たちが、レンズ付きフィルムやラジカセのリバイバルヒットに火をつけたのだ。  
さらに昭和への郷愁もあるに違いない。
「明るく豊かな未来を信じられた時代」
「経済格差が今ほど大きな問題にはならなかった時代」

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─そんな古き良き昭和のイメージが、今や日本のマーケットリーダーとなったシニアに影響されるようにして若者にも浸透しつつあり、「懐かしい」商品への郷愁をかき立てている。それがノスタルジックマーケティングの成功例を生む土壌になっているのではないだろうか。

では、こうした変化は今後、企業や私たちの仕事にどんな影響を及ぼすだろうか。 
製品開発の分野では「懐かしさ」が今後ますます重要なキーワードになっていくだろう。実際、ノスタルジックマーケティングは趣味性の高い音響機器やカメラだけでなく他の分野にも広がりつつある。例えば玩具メーカーは今、大人の女性を対象に懐かしいキャラクターを活用した製品の開発に力を入れている。バンダイはセーラームーンをあしらった化粧品を発売、タカラトミーは大人向けのリカちゃん人形を開発した。どちらも少女時代に親しんだキャラクターの懐かしさが売り物だ。
さらに外食やサービスの分野でも「懐かしさ」の価値は上がっていくだろう。すでに外食では昭和30年代風の内装はごくありふれた意匠になっている。  
だとすれば今、しばらくの間立ち止まって過去のヒット商品や流行・風俗を振り返ってみるのも仕事のプラスになるかもしれない。戦後70年余り、日本企業は様々なヒット商品を世に送り出し、時代を変えてきた。日本企業が世界に先駆けて開発した商品やサービスもシャープペン、電子レンジ、ウォークマン、ファミコン、ハイブリッド車、回転寿司、カラオケなど枚挙にいとまがない。

過去のヒット商品やサービスを改めて検証し、時代や世代を超えた普遍的な魅力を再発見することは、単にリバイバルヒットや復古調商品を生み出すためだけでなく、これまでにない新たな製品やサービスを生み出すうえでも様々なヒントを与えてくれるのではないだろうか。それを考えると初代ゴジラへのオマージュを随所に含んだ映画『シン・ゴジラ』の記録的な大ヒットは示唆的だ。

shibuya

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