渋谷和宏の経済ニュース

第4回渋谷和宏のいやでもわかる経済ニュース

マクドナルドの危機、テーマパークの活況

モノ消費からコト消費への大転換で勝ち組・負け組が一変する

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かつて「デフレ時代の勝ち組」「外食の雄」などと呼ばれ、2004年から8年間も増益を続けてきた日本マクドナルドの業績悪化に歯止めがかからない。
 今年2月5日に発表された2014年12月期の決算では、本業の儲けを示す連結営業損益が67億円の赤字となり、2001年の上場以来初の営業赤字に落ち込んだ。最終損益も2003年12月期以来11年ぶりの赤字で、しかもその金額は218億円と上場以来最大だ(ちなみに前の期は営業損益が115億円の黒字、最終損益が51億円の黒字だった)。
 今年に入ってからも苦境は続いている。2015年1月の既存店売上高は前年同月比38.6%減と上場以来最大の下げ幅を記録、2月も同28.7%減と3 割近い落ち込みだった。
 外食の頂点に君臨した日本マクドナルド ─なぜ短い間にこれほどまでに変わり果ててしまったのだろうか。
 昨年(2014年)7月に発覚した中国の食肉加工会社による使用期限切れ鶏肉の問題が業績の足を引っ張ったのはもちろん言うまでもない。さらに昨年から今年にかけて発覚した異物混入事件も客離れに拍車をかけている。
 しかし日本マクドナルドの業績推移を振り返ると、不祥事だけが原因だとは言えない。実は既存店売上高は2013年にはもう前年割れが目立つようになっていた。2013年1月は前年同月比17.0%の減少、2月も同11.2%の減少だ。さらに過去にさかのぼれば売上高のピークは2008年度の4064億円、営業利益のピークは2011年度の282億円強で、その後は減収減益が続いている。
 日本マクドナルドがかつての勢いを失ってしまった理由 ─ それはここ数年で起きた消費者の趣味・嗜好の決定的な変化に取り残されてしまったからにほかならない。「モノ消費」から「コト消費」への大転換に乗り遅れたのだ。

モノを消費・所有する消費から体験を楽しむ消費へ

実は今、モノを消費・所有する「モノ消費」からサービスや体験を消費する、すなわち時間を楽しんだり有効に使ったりする「コト消費」へと消費の主役が変わりつつある。モノの売れ行きが落ち込むのとは対照的にコトの売れ行きが伸びているのだ。
 読者の皆さんも実感されているように消費増税の影響もあってモノの消費には勢いがない。とりわけスーパーや量販店での売れ筋である中・低価格の日用品・食品・衣料品の売り上げはこのところずっと前年を下回り、ボリュームゾーン不況などとも呼ばれる。ボリュームゾーンとは商品が最もよく売れる普及価格帯の意味だ。
 一方、後で詳しく触れるが、テーマパークや映画、旅行など体験型の消費は活況を呈している。
 この対比は外食産業にもあてはまる。家族や友人たちとプレミアム感のある料理を食べながら食事の時間をゆったり楽しむ高価格帯のファミリーレストランは好調に売り上げを伸ばしているが、ハンバーガーや丼ものを短時間で詰め込むファストフード店は元気がない。

では日本マクドナルドはどちらに属するのか。言うまでもなく「モノ消費」としての食事に特化した代表的なファストフードチェーンだ。店内には一人客用の椅子が多く配置され、テーブルはどちらかと言えば小さく、1 時間も2時間もかけて食事の時間を楽しむのには向いていない。日本マクドナルドの来店客の平均滞在時間は20分とも言われる。かつては強みだったこれらの特徴が「モノ消費」から「コト消費」への転換によって弱みに変わり、客離れを招いてしまった ─ 日本マクドナルドが直面する苦境を一言で表現すればこうなるだろう。さらに健康志向の高まりで、ダブルクォーターパウンダー・チーズが828kcal、メガマックが776kcal といった高カロリーメニューがとりわけ中高年から敬遠されているのも大きい。
 現役の会社員時代にはマクドナルドをよく利用したという60代の男性の感想は示唆に富んでいる。「この年齢になると1回1回の食事を大事にしたくなるんですよ。そうした目で見ると家族や仲間とゆったり時間を過ごせるレストランや和食店は他にもいくつもありますからね。それなりに美味しいものでお腹を満たしたいのならコンビニの惣菜や弁当があるので、そういうものを食べるためにわざわざ外食はしない。この年齢になるとなおさらそう思います。」

新たな勝ち組・負け組が続々と登場

「モノ消費」から「コト消費」へ ─ 急速に進む消費の変化は日本マクドナルドのような外食のみならず、幅広い業種・企業で新たな勝ち組・負け組を生んでいる。例えば ─ 。
 遊園地・テーマパークが空前の活況を呈している。消費増税後の逆風下にもかかわらず全国区の大型施設から地方の中規模施設まで入園者数を伸ばしているのだ。
 東京ディズニーリゾート(千葉県浦安市)の2014年度の入園者数は過去最高だった2013年度に次ぐ3040万人となる見通しだし、映画のテーマパーク、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン( 大阪市)もこの3 月中旬、2014年度の累計入園者数が過去最高だった2001年度の1102万人に並ぶと発表した。
 さらにハウステンボス(長崎県佐世保市) は2014年度の入場者数が前年度に比べて15%、ひらかたパーク( 大阪府枚方市)は同11%伸びると見込んでいる。この結果、経済産業省が3 月に発表した統計では2014年のテーマパークの市場規模は前年比6.3%増の6065 億円と、2000 年の調査開始以来、初めて6000 億円を突破した。
 映画も健闘している。日本映画製作者連盟によれば、2014年に国内で公開された映画の興行収入は前年比6.6%増の2070億3400万円と、消費増税の逆風を跳ね返し、2000年以降で3番目の成績となった。観客動員数も1億6111万6000人と前年比3.4%増だった。とりわけアニメが観客を吸引し、『アナと雪の女王』(ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン配給)は歴代3位の254億8000万円の興行収入を記録した。
 テーマパークや映画のようなエンタテインメントばかりではない。旅行も堅調だ。JTBグループは昨年11月に発表した決算発表で、2015年3 月期 第1・第2四半期(2014年4月1日~ 2014年9月30日)累計の売上高は消費増税にもかかわらず前年比1.7%増の6783億200 万円に達したと発表した。海外・国内旅行ともに団体旅行が牽引した結果だという。
消費増税の影響については「4月から6月末までの第1四半期の売上高こそ伸び悩んだものの、第2四半期からは増収に転じた」としている。
 一方、モノ消費を担う業種・企業の業績は冴えない。日本チェーンストア協会は今年1月、2014年の全国スーパー売上高は全店合計で13兆207億円となり、新規出店を除く既存店ベースでは前年実績を0.6%下回ったと発表した。商品別では衣料品の落ち込みが大きく、前年比5.4%減だった。
 好調に市場を拡大してきたコンビニエンスストアも2014年の年間売上高は既存店ベースで8兆8315億円と前年比0.8% 減少した(日本フランチャイズチェーン協会調べ)。

高齢化で時間の価値がますます高まっている

なぜ「モノ消費」が低迷している一方で「コト消費」は好調なのだろうか。これまでの常識では景気が悪化し、消費が低迷する時には食料品や衣料品のような必需品よりも娯楽や旅行への支出がまず削られた。
 その常識が変わった理由として、まずモノが行きわたっているという事実が挙げられるだろう。「モノ余り」と言われて久しいように、電などの耐久消費財にしてもIT関連製品にしても僕たちはすでに手に入れてしまっている。一通りのモノを揃えた今、欲しい商品が特にないと言う人も決して少なくない。成熟した消費社会では単純な消費・所有への意欲は減衰すると言ってもいいかもしれない。
 対するコト消費は時間が許す限り何度でも繰り返せる。定年退職して久しぶりに妻と出かけた旅行が楽しかったら、夫婦は何度でも旅行したいと思うようになるに違いない。初めて体験したテーマパークが楽しければまたきっと来場するだろう。「コト消費」は物理的に所有できない。だからこそ「モノ消費」とは対照的にリピーター需要を取り込みやすいと言える。
 高齢化に伴い、時間の価値がますます高まっている面も見逃せない。人生の残り時間が短くなれば、今この時を有意義に、あるいは楽しく過ごしたいと思うのは誰にとっても自然な流れだ。僕自身、50代も半ばになって限りある時間を大切に使いたいとつくづく思う。
 高度成長期から今日までの日本経済を担い、それなりの老後資金を得て引退したシニアたちが家族と過ごす食事や旅行、娯楽にお金と時間を注ぎ込むのもまた自然な流れだろう。

さらに2011年の東日本大震災以降、ますます際立ってきた若い世代の価値観の変化も無視できない。若いビジネスパーソンに対して「どん欲にモノを消費、所有するライフスタイルに憧れるか」と問えば、大多数は首を横に振るのではないか。大切なお金は自分の将来に投資したり、仲間と豊かな時間を過ごしたりするために使いたい ─ それが多くの若手ビジネスパーソンに共通する思いだろう。
 「モノ消費」から「コト消費」への転換は僕たち日本人の価値観の変化がもたらしたものだと言っていい。だとすればこの流れは今後ますます強まるに違いない。
 それによって僕たちの仕事はどう変わるのだろうか。
どんな仕事であっても、どうすればユーザー・消費者に「豊かな体験・時間」を提供できるかが問われるようになるだろう。サービス業に従事するビジネスパーソンはもちろん、モノの開発・製造に携わるビジネスパーソンにしても、例えば家電を開発する時に、それを使うと消費者はどれだけ豊かな体験・時間を味わえるのかを考えなければならなくなる。思い切った言い方をすれば、モノは今後、「コト消費」のための道具になっていくのではないか。
 実は流通業では「コト消費」をにらんだ取り組みが本格化している。セブン&アイ・ホールディングスやイオンなどの大手流通グループは、料理教室や音楽教室、ネイルサロン、子供の遊び場など「コト消費」を担うテナント・施設のショッピングセンターなどへの導入を競うように進めている。
 「コト消費」はあらゆる業種・企業、そして仕事を変えようとしているのだ。

shibuya

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