中田喜文の「エンジニア。データからはこう見える!」

Vol.5 「皆さんの能力や仕事ぶりの評価、納得していますか?」

同志社大学STEM人材研究センター長の中田喜文です。
「エンジニア。データからはこう見える!Vol.4」では、皆さんの給料に関連するデータを紹介しましたが、今回のVol.5では、その給料の決め方についてお話します。皆さんは、ご自分の仕事能力や仕事での成果について、上司の評価に納得できていますか。
給与の決め方、そしてその水準の決め方について、学者は沢山の研究を行っています。それらの研究から分かったことの1つは、給与に対する満足感は、その水準の高低以上に、決め方に影響を受けていることです。とりわけ、皆さんの能力や仕事成果を通しての貢献度・業績をどの様に評価してもらえたか、その内容で満足度の水準はずいぶん変わることがわかっています。
そこで今月のクイズです。
日本の技術者のなかで、能力と業績評価に対する納得度が一番高いのは、以下の4つの年齢グループの内、どれでしょうか?
1)20歳代技術者
2)30歳代技術者
3)40歳代技術者
4)50歳代技術者

勿論、納得度の高い人が多い企業もあれば、少ない企業もあります。同じ企業の同期入社の中でも、個人によって納得している人もいれば、そうでない人もいますね。それでも見事に日本の技術者の納得度の高さには年齢グループによってきれいな統計的なパターンが見られます。対象を男性、あるいは女性に限定してもパターンは同じです。さらに、技術者全般でも、ソフトウェア技術者に限定した場合でも結果は同じです。
ある年齢グループは納得度が高く、別の年齢グループの納得度は低いことが、近年日本で技術者を対象に実施された2つの大きな調査から判明しました。さて、能力評価や業績評価の納得度が高い年齢グループとはどれでしょう。ただし、ここでは同じ年齢グループの管理職の方は対象から除外しています。純粋に技術者の方に限った話です。

1)から4)の選択肢から正解を見つけるポイントは、皆さんの経験を思い出すことです。入社した20代のころ自分の評価に対しどう感じたか。経験を積んで仕事に自信が出てきた30代のころ、その仕事に対する上司の評価はどうだったか。40代ではどうか。

以下の表1を見てください。この表は、技術者が「自分の能力評価結果に納得している割合」です。

男性も女性も、技術者全般もソフトウェア技術者も、すべてのケースで、最も納得者率が高いのは、最も若い年齢グループです。そして、1か所例外はあるものの、年齢が高まると共に納得者率は低下しています。
同様のパターンが技術者が「自分の業績評価結果に納得している割合」についても見られます。表2です。業績評価に対する納得も年齢が高まると共に、納得者の割合は、例外はあるものの、低下しています。

皆さんは、正解を選択できましたか?

私は、この2つの表の結果を見て、なんだか、想定とは逆だな、と思いました。経済学に「情報の経済学」と言う分野があります。情報が如何に大きな経済的価値を持つか、また情報の有無がどのような経済的帰結をもたらすか、を考える学問です。この分野の研究成果の一つに、より多くの情報を得ることで、より適切な判断が可能になる、と言うものがあります。これに従えば、月日の経過とともに、上司は部下の仕事ぶりや能力、組織への貢献度などに関する多くの情報を得ることで、より正確に部下を評価できるようになるはずです。であれば、年齢と共に納得率は高まることが予想できます。ところが、先ほどの研究成果を見ると、納得率の低下は、40代、50代で大きいようです。なぜでしょう。人は年を取ると、だれでも愚痴っぽくなるからでしょうか。技術者も例外ではない、ということでしょうか。

私は少し違った理由を考えました。それは経験を積んだ優秀な技術者に対する日本企業の処遇の仕方にその理由があるような気がします。
Vol.4のクイズのこと覚えていますか。
日本では、専門職の給与が、管理職と比べ低く設定されていることをお話ししました。企業では、一般的に40代、50代になると専門職としてではなく、管理職として働くことが多くなります。つまり、その年代では、会社が高い評価を与える職務内容が専門職務から、管理職務に移っているのではないでしょうか。そのため、管理職ではない40代、50代の技術者は、評価が低くなる傾向があり、その結果、自分の専門性が十分に評価されていない、と感じているのかもしれません。これは未だ私の仮説です。皆さんは、どう思われますか。

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