同志社大学STEM人材研究センターの中田喜文です。
前回から中国の技術者についての連載を始めましたが、今回は中国の技術者の特徴について考えましょう。

「え、中国の技術者ってそんなに違うの?」と、不思議に思うかもしれませんね。
隣国で、東京から2時間も飛行機で飛べば、北京にも上海にも到着する近さだし、何より同じ仕事をする技術者が、国によってそんなに違うの?と不思議に思うでしょう。
実はあまり知られていませんが、同じ職種でも仕事に対する考え方や仕事の仕方は、国によってかなり異なります。国によって社会制度、経済制度、そして市場制度が異なります。その結果、多くの人が小さな企業で働く国もあれば、日本のように数少ない大企業で多くの人が働く国もあります。すると企業の大きさによって組織のマネジメントの仕方が異なることを反映し、それらの国で人々の働き方が変わってきます。では、中国はどうでしょう。
中国の技術者の働き方や考え方に、どのような特徴があると思いますか。
それでは今月の問題です。
以下の4つの中で、中国のソフトウェア技術者の特徴を表す文章はどれでしょう。
今回は世界5か国のソフトウェア技術者調査の結果を使うので、ソフトウェア技術者に注目します。今回比較する5か国は、日本、アメリカ、ドイツ、フランス、そして中国です。
中国のソフトウェア技術者は、
1)仕事が大好き:5か国の中で仕事にやりがいを感じる割合が一番高い。
2)会社が大好き:5か国の中で愛社心の高い割合が最も高い。
3)よく働く:5か国の中で労働時間が最も長い。
4)よく学ぶ:5か国の中で自己啓発のための時間が一番長い。
そこで、今月のヒントです。
今回の正解は、中国のソフトウェア技術者も含めた技術者労働市場の特徴と関係しています。前回のテーマを覚えていますか。中国技術者の労働市場の大きさでした。
つまり、中国の技術者は、巨大な労働市場の中で、自分に合った仕事を多くの選択肢の中から探すことで、現在の仕事にたどり着いたわけですね。ご自分をそのような環境に置いて見て考えてください。そのような労働市場の中で、自分のキャリアを構築する時、貴方ならまず何をするでしょう。
ヒントその2は、この連載のVol.10「しっかり自己啓発していますか?」で取り上げた自己啓発に関するテーマです。
さて、正解はなんでしょう。
下図は、調査対象5か国のソフトウェア技術者について上記4つの質問に対する回答から5か国の技術者をランキングし、その結果を、中国、フランス、ドイツ、日本、そしてアメリカについて表示した結果です。
結果は一目瞭然です。中国のエンジニアは、よく働き、仕事も大好きで、共に5か国中2番目ですが、学びの時間では12.1時間と最長で、よく学ぶランキングでトップです。つまり、正解は4)よく学ぶでした。
では、日本のエンジニアはどうでしょう。週当たりの平均労働時間は、48.9時間と5か国では最長で、よく働くランキングではトップですが、他のランキングでは、5か国中最下位と残念な結果です。今回のランキング結果を見て、皆さんは何を感じられましたか。
次回は、この様な巨大で、上昇志向の強い中国の技術者労働市場のもう一つの側面についてお話します。日本においても、より多くの技術者の能力が活用されるようなダイナミックな技術者労働市場となり、人と仕事のマッチングを高めるためには、一人一人の自己啓発活動を活発化することができるような仕組み作りも必要かもしれません。
同志社大学STEM人材研究センターの目的の一つが、「科学技術の領域で活躍する方々がより創造的に活躍できるための環境と施策の構築に資する」研究を行うことです。日本の科学技術発展のためにも、多くの技術者が適材適所で活躍できる環境作りに寄与できる研究を行っていきたいと思います。