社員インタビュー

インフォマティクス技術で知能と生命の本質に迫る

株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社
インフォマティクス事業推進室 滋野修一さん


株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社(以下「テクノプロ・R&D社」 )では、AI・機械学習やデータ解析などの先端技術を駆使し、化学やバイオ、材料など様々な領域における高度な研究を支援する「インフォマティクス解析受託サービス」を提供しています。今回は、テクノプロ・R&D社のインフォマティクス事業推進室に所属する滋野修一さんにインタビューを行い、これまでに手掛けてきた研究分野やインフォマティクス技術が持つ可能性などについてお話を伺いました。

――本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、滋野さんの現在の業務内容について教えてください。

滋野 私は現在、テクノプロ・R&D社のインフォマティクス事業推進室という部署に所属しており、その中でもイメージング――つまり画像解析のチームで業務に従事しています。ひとことで「画像」と言っても生体、材料、工学系など、さまざまな領域がありますが、私は細胞・生物系のCT・MRI画像を機械処理し、統計的に解析することでお客さまの求める情報を抽出する業務を行っています。

私の担当するバイオ分野の業務内容について分かりやすい例を挙げると、ヒトの身体のCT画像の一部を抜き出し、AIや機械認識などインフォマティクス技術を用いて解析・統計処理することで、さまざまな三次元モデルの構築や、細胞・組織の病変の発見などに役立てています。

――AIやデータサイエンス、シミュレーションなどを駆使するインフォマティクスは、テクノプロ・R&D社のサービス領域の中でも比較的新しい分野ですが、需要は多いものなのでしょうか。

脳と神経の3Dモデル。数千枚のスキャンされた画像から作成したもの。インフォマティクス事業部では複雑なバイオ画像の解析を担当している。

滋野 少し前まで、インフォマティクスはバイオや化学といった研究領域とは異なる専門分野として区別されており、知見を持つ人材も限られていました。しかし、近年ではテクノロジーの発展によりツールが急激に増え、AIも大幅に使いやすくなったことから、インフォマティクス技術は分野を問わず研究活動に不可欠なものになり、需要も大きく拡大しています。中でも、画像はどのような研究分野でも使用されていますので、私が担当しているイメージ処理に関するニーズは非常に大きいですね。

ただし、その一方でお客さまの裾野も広がっており、まだインフォマティクスについての知見をお持ちでないお客さまに対して当社がコンサルティングを行い、ご依頼内容に応じたツールの選定や、目的に応じた解析手法の提案などを行うケースも増えています。

また、技術自体が日々進化を続けていることもあり、ご依頼を受けた段階ではお客さま自身がゴールのイメージを明確にお持ちでないケースも少なくありません。そういったプロジェクトで成果を出すためには、専門家としての自分たちの知識や経験をフル活用し、創意工夫することが求められますが、むしろそういった仕事のほうが非常にやりがいを感じますね。

――テクノプロ・R&D社のインフォマティクス関連サービスにはどういった強みがあるのでしょうか。

滋野 当社のサービスにおける大きな強みとして、さまざまな領域の高度な知見を持ったメンバーが多数在籍しており、ほかの企業が簡単には対応できないプロジェクトを遂行できる点があります。

現在、インフォマティクス事業推進室には10名以上の専門家が所属していますが、その中にはタンパク質の立体構造に精通した専門家もおり、あるタンパク質にドッキングする物質の予測といった難易度の高い依頼にも対応可能で、需要も非常に高いですね。そのほかには、ヒトのがん細胞から抽出した何万種類もの遺伝子を、インフォマティクス技術を用いて一括解析する業務を担当するチームもあり、遺伝子解析の分野でも強みを持っています。

先ほどお話した需要の拡大に伴い、インフォマティクス関連事業を手掛ける会社は急速に増えていますが、研究活動を通じて積み上げた豊富な知識や経験に裏付けられたバックグラウンドを持つ専門人材は、まだまだ不足している状況です。インフォマティクスで使用するツールや解析手法などは共通する面があるとはいえ、先ほど述べたタンパク質や遺伝子、私が専門としている細胞分野なども含め、研究領域にはそれぞれ独自のノウハウが存在します。そういった観点から考えると、異なる分野の有識者がそれぞれの知識と経験に基づいて意見を出し合い、新しいアイデアを追求することができる体制があることは、テクノプロ・R&D社ならではの特長だといえます。

――専門分野という面では、滋野さんはタコ・イカなど「頭足類」についての研究に長く取り組まれていたそうですが、これらを研究対象に選んだ理由を教えていただけますか。

滋野 もともと生物の「知能」というものに強い興味があり、その領域における理解を深めるために鳥類やマウス、魚なども含めて多種多様な動物も研究してきましたが、タコやイカは、それらヒトとの共通点が多い生物とはあまりにもかけ離れている点が、とても興味深かったことが大きな理由です。

実は、動物の学習の仕組みを発見できたのは頭足類の脳に関する研究がきっかけで、現在、広く活用されている深層学習も、その基本的な仕組みはタコやイカといった生物の記憶のプロセスを模したものなのです。
いま世の中でChatGPTが話題になっていますが、その基本部である「トランスフォーマー」というAIの構造も、タコの脳が学習する仕組みとよく似ているんです。とても面白いと思いませんか?

そういった意味で、「知能とは何なのか」 「意識や心はどこにあるのか」、そして「人間、生命とは」といった重要なテーマを考えるうえで大きな示唆を与えてくれる存在として、タコやイカの研究を30年以上続けてきました。

――ちょうどこのインタビューの直前に、タコやイカの世界をテーマした島根大学の先生と共著書も出版されたそうですね。「タコには心臓が3つ、脳は9つある」 「吸盤には味を感じる機能がある」といった、これまでに聞いたこともないような頭足類の不思議な生態など非常に興味深い本でした。

滋野さんが共著者として執筆した書籍: 『タコ・イカが見ている世界』(創元ビジュアル教養+α)

滋野 この書籍の執筆についてはテクノプロ・R&D社に入社する前に取り組んだものですが、ゲノムや遺伝子に関わるパートと、知能や学習の仕組みなどを解説する部分のうち、後者が私の専門領域ということで担当させていただきました。

執筆についてはアカデミックな論文などと異なり、一般の読者に向けた分かりやすい書き方を意識する必要があり想像以上に苦労しましたね……。
ですが、その経験を経て得られた「平易で理解しやすい表現を考えるスキル」は、現在の業務で、お客さまに複雑な画像認識の仕組みを説明する際に役に立っているような気がします(笑)。

一般に、情報系の研究者はマウスなどを用いた医学系の研究をベースに解説を行うことが多いのですが、「何か毛色の違う面白いテーマはないか」と考えた出版社が、タコやイカという、人間とはまったく異なる「変わりもの」に関する研究に目を付けて、この書籍を企画したようです。
実際に、この本ではタコ・イカの生態などに関する単純な解説だけではなく、生命研究の歴史的な側面からの考察や、生物の脳と生成AIの類似点といった少し変わった観点のテーマについても触れていますが、このようなことに言及している研究者は私くらいしかいないのではないかと思っています。手前味噌かもしれませんが(笑)。

――滋野さんは頭足類の研究でその生態を解き明かしたり、インフォマティクス技術を活用してお客さまのプロジェクトを遂行したりと様々に活躍されていますが、研究者として自身の専門性を高め、成果を出していくために大切なことなどがあれば教えてください。

滋野 これは、私独自の考えというより広く言われていることかもしれませんが、社会の中にまだ多数存在している解決すべき課題、その中でも特に大切な問題は何なのかを、いかに見極めることができるかが大事だと思います。技術というものは無限といってもいいくらいに存在していますが、その中で社会的に重要なものを特定して、自分から能動的に注目していくことが必要です。

テクノプロ・R&D社のコア事業である技術者派遣の現場では、どうしても受け身になってしまいがちかもしれませんが、そこで主体性を持って注力すべきポイントを見つけ、積極的に仕事に関わっていく姿勢が大事ですね。何よりも、問題意識を持ち、解決に向けてゴールを設定してチャレンジしていくことで、仕事がもっと楽しく感じられるはずです。

私自身も、いま取り組んでいるインフォマティクスの分野で、新しい課題に挑戦をすることが本当に楽しくて仕方がありません。ただし、あまりにも仕事にのめり込みすぎると過労で倒れてしまいますので、休み方も含めたオン・オフのバランスには気を付けるようにしています(笑)。

――それでは、最後に今後のご自身の目標について聞かせていただけますでしょうか。

滋野 これまで、様々な大学や研究機関、企業などで働いてきましたが、その経験から言うと、アカデミアでは任期制のために次のポジション探しに追われて安心して働けませんし、ポジションが高くなると研究資金集めに奔走させられたりして研究から離れてしまうことがあります。また、企業でも自社の製品やサービスしか扱えず、また営業活動への参加が必要になるなど、研究に集中できないケースもありました。
そういった観点から考えると、現在所属しているテクノプロ・R&D社では最前線の現場で研究を続けることができますし、受託業務では多様な分野のプロジェクトを経験することも可能です。
自分にとって非常に満足できる環境が得られていますので、これからも研究を通じて「知能とは何か」という自分の思想的なテーマを追求していきたいですね。

また、技術の発展により実現可能なことが増えてきたことから、現在の業務でも、少し前までなら単なる空想に過ぎなかったような、実現不可能と思われたテーマが、現実の要望としてお客さまから寄せられ、それに対して我々も、未知のことでも「やったことはありませんが、きっとできるはずです!」と答えられる時代になっています。
近年ではPC性能の向上により個人や単体企業でも高度な生成AIを使える環境が整ってきましたので、当社の有識者が持つノウハウや、様々なプロジェクトで培った知見をベースにした、テクノプロ・R&D社独自のツールを構築し、その力で社会にポジティブなインパクトを与えられたら――と考えて日々の研究に取り組んでいます。

――その目標が実現する日を楽しみにしています! 本日はありがとうございました。


《テクノプロ・R&D社のインフォマティクス関連サービス》

化学・バイオの研究開発に専門特化したR&Dカンパニーとして、インフォマティクス解析の受託サービスをご提供しています。
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