中田喜文の「エンジニア。データからはこう見える!」

Vol. 18 近くてもまだまだ知らない中国③ 「中国の技術者はよく転職をする?」

同志社大学STEM人材研究センターの中田喜文です。
今回は、中国の技術者についての最後の連載です。1度目は中国技術者労働市場の大きさについて、そして2回目は彼らの旺盛な学びの態度についてご紹介しました。そして、3回目となる今回は、彼らの転職動向についてです。日本においても技術者の転職はホットなトピックです。とりわけ、ビッグデータやAI、そしてデータサイエンスに関係するソフトウェア技術者の不足とそれに起因する転職率の高まりは、関係者だけの課題に留まらない社会経済問題になっています。このコラムでも、第14回ではアメリカの、第6回では日本の転職率について現状を紹介しました。皆さん、覚えていますか。今日のクイズのヒントを兼ねて、簡単に両国の転職状況を復習しましょう。

日本は多くの欧米諸国と較べると技術者の転職率は低いものの、傾向的には上昇しています。職種別転職状況に関する直近データである2017年の就業構造基本統計調査によると、過去1年以内に転入職した技術者全体の割合は、4.8%です。また、ソフトウェア技術者は、技術者より高く、8.4%でした。他方アメリカは、さすが転職大国だけあって、政府の公式統計で毎年の職種別転入職者がわかります。2020年の統計では、ソフトウェア技術者以外の技術者の10.4%に対して、ソフトウェア技術者だと13.8%と、ソフトウェア技術者以外の技術者だと日本の約2倍、ソフトウェア技術者では、約1.6倍です。(※1)

※1 U.S. Bureau of Labor Statistics, Current Population Survey, ”The Employee Tenure and Occupational Mobility Supplement”, January,2021.

では、中国はどうでしょう。日本より高いのでしょうか。残念ながら、中国国内の労働市場情報は、ほとんど公開されておらず、転職率も非公開です。近年の中国技術者に関係する転職率について日本で入手できる唯一の公開統計は、IPAから2016年に出版された世界5ヶ国のソフトウェア技術者に関する報告書のデータです。(※2) 今回は、そのデータを使って考えてみましょう。

※2 IPA『「日本のソフトウェア技術者の生産性及び処遇の向上効果研究:アジア,欧米諸国との国際比較分析のフレームワークを用いて」に関する成果報告書』2016年
https://www.ipa.go.jp/files/000055655.pdf

そこで、今回のクイズです。中国ソフトウェア技術者の転職率は、日本より高いのでしょうか低いのでしょうか。以下の選択肢から正解を選んでください。

①日本より低い
②日本と同程度
③日本の2倍程度
④日本の3倍程度以上

では、IPA2017年報告書のデータから作成した中国のソフトウェア技術者についての勤続年数分布を表すヒストグラムを見てください。それぞれのバーは、2年間隔で表記されていますが、勤続年数が最も短い2年以下のグループが40%を超えています。その内、1年未満者の割合は、28.7%です。そして、勤続年数が2年を超えると急速に割合が低下し、16年を超えるソフトウェア技術者は、極めて少数です。

そうです、正解は、④の3倍程度以上です。すでに見た通り、アメリカのソフトウェア技術者でも、その転職率は、日本の1.6倍でした。それと較べると、
中国は28.7%(中国の1年未満のソフト技術者の転職率)÷8.4%(日本のソフト技術者の転職率)≒3.4
と3倍を大きく超えています。今回は、勤続年数が1年未満の技術者の転入職者数で簡易的に代替しましたが、実際はこの率よりも高くなります。この数字からすると、中国ソフトウェア技術者の転職率は主要国の中では、アメリカすら大きく上回り、中国が超転職社会であることがよくわかります。

すでに述べた通り、日本の技術者についても近年転職率の上昇が続いています。転職率の上昇は、様々な効果を持っています。雇用主にとっては、大切な人材が流出しないか不安は高まるでしょうが、同時に有能な人材の獲得チャンスも増えます。技術者にとっては、転職のハードルが下がることが期待できますね。もう一つ期待される効果は、給与水準の上昇です。特に人材不足の状況で、転職すると給与水準が上昇する確率が高まります。そして、転職者の給与上昇は、市場全体の水準上昇に波及していきます。

同志社大学STEM人材研究センターの目的の一つが、「科学技術の領域で活躍する方々がより創造的に活躍できるための環境と施策の構築に資する」研究を行うことです。日本の科学技術発展のためにも、多くの技術者が適材適所で活躍できる環境作りに寄与できる研究を行っていきたいと思います。

前の記事

合わせて読みたい

中田喜文の「エンジニア。データからはこう見える!」 一覧へ