コンビニエンスストアがここに来てこれまでとは次元の異なる進化・変身を遂げようとしている。
ファミリーマートは今年5月25日、業界で初めて店内にコインランドリーがある店舗「ファミマランドリー」の1号店を都内に出店した。店内には洗濯機2台、洗濯乾燥機3台、乾燥機4台を揃え、24時間無人営業でコインランドリーを利用できるようにしている。単身世帯や共働き世帯の増加でコインランドリーの利用者は最近、都市部を中心に増え続けている。こうした需要に応え、コンビニの利便性をいっそう高めて来店客を呼び込むのが狙いだ。
さらに洗濯の待ち時間に食事してもらうための広めのイートインコーナーを設けたり、染み抜きや色移り防止シートなどの“ついで買い”を狙った商品も取り揃えたりするなど、洗濯前後の買い物需要の取り込みも図る。
ファミリーマートは今年度中にファミマランドリーを50店舗オープンさせ、2019年度末までに300店舗に増やす計画だ。
“ドンキ流コンビニ”も登場
ファミリーマートはさらに6月1日、屋外に安売り品を大量に積み上げ、大人が隠れる高い棚を店内に設けた“ドンキ流コンビニ”も都内に開業した。
ディスカウントストア大手のドン・キホーテと提携し、その品揃えや店づくりのアイデア、ノウハウを取り入れた売り場は、コンビニを見慣れた私たちの目にはまさに異次元の店舗に映る。
店先にはティッシュや飲料、菓子などの雑多な商品が並び、2リットルのペットボトル入り飲料水が60数円と、定価販売が原則のコンビニの常識を覆す値段で売られている。
店内には通常の店に置いてある棚よりも人の頭一つ分高い180cm の陳列棚が配置され、菓子や雑貨がぎっしり詰め込まれている上に、弁当の隣に将棋やボードゲームが並ぶなど、雑然としたドン・キホーテの売り場を彷彿とさせる。
ファミリーマートは6月中に“ドンキ流コンビニ”を3店舗開業し、客数や収益を検証した上で、効果があった品揃えや店づくりのアイデア、ノウハウを1万7000店超の全店舗に順次、導入していくという。狙いはドン・キホーテの主要なお客である若者の取り込みだ。
最大手セブンは実店舗とネットの融合目指す
最大手のセブン-イレブン・ジャパンが目指す進化は実店舗とネット通販の融合だ。
同社は今、札幌市の店舗で、お客がスマホで商品を注文すると、セブン-イレブンの制服を着た配達員が指定時間に合わせて自宅に届けるネットコンビニのサービス実験に取り組んでいる。お客が選べる商品は店舗に在庫がある2800品目に達し、最短2時間での配達が可能だ。注文した商品はもちろん店でも受け取れる。
ネットコンビニのサービスは昨年10月、降雪・積雪のために来店客が伸び悩む冬の売り上げをテコ入れする狙いで始めた。当初は主な利用者は高齢者だろうと予想していたが、蓋を開けてみると働く女性など30~40代が5割を占める結果となった。
ネットで注文した商品を家まで届けてもらうネットコンビニのニーズは世代にかかわらず季節を問わず常時ある─そう確認したセブン-イレブンは2019年度以降、全国約2万店の店舗に順次、ネットコンビニのサービスを広げていく方針だ。まさに究極の御用聞きとしてのコンビニを目指していると言っても過言ではないだろう。
ライバルのローソンも負けていない。同社はケアマネージャーを常駐させた「ケアローソン」を出店しており、その数は現在10数店舗に達している。介護拠点としてのコンビニという発想は、小売りから介護サービスへと踏み込んだ点で、これまでのコンビニの概念を打ち破るものだと言えるだろう。
快進撃の背景にあるコンビニの危機感
モノだけでなくサービスや体験も提供し、ネットとの融合も目指すコンビニの進化、その原動力は危機感に他ならない。
1970年代に誕生して以来、右肩上がりの成長を遂げ、小売りの頂点に立ったと言ってもいいコンビニだが、前途には不透明感が生じている。
日本フランチャイズチェーン協会によれば、今年4月のコンビニ大手7社の既存店の来店客数は前年同月比0.8%減と、26カ月連続で前年同月比マイナスとなった。売上高こそ0. 7%増と4カ月連続で前年同月比プラスを維持したが、経営環境は明らかに曲がり角を迎えている。
背景にあるのはネット通販とドラッグストアという2つの勢力の台頭だ。
ネット通販の成長は今やとどまるところを知らない。国内ネット通販大手のアマゾンジャパン、楽天、ヤフーの3社を合わせた販売額は2017年には約6兆7000億円に達し、前年から13%増えた。
しかもアマゾンジャパンが手がける生鮮食品のネット通販「Amazon フレッシュ」が、今年5月下旬でサービス開始から1年を迎えるなど、取り扱う商品の分野は年々広がり、今やネットで買えない商品はないと言っても決して大げさではない。
さらにここに来てドラッグストアが強力なライバルになろうとしている。カップラーメンやお菓子といった加工食品のみならず、コンビニの得意分野である店内で調理した食品の販売を続々と手がけ始めているのだ。
ドラッグストアが店内でジュースやカレーを
マツモトキヨシホールディングスは今年1月、東京・原宿駅前にある店舗で生の野菜や果物をすりつぶして作るコールドプレスジュースの販売を始めた。昨年6月に開いた銀座の店に続き2店目となる。コールドプレスジュースはミキサーで作るジュースに比べてビタミンなどが残りやすいと言われ、価格は1000円前後と高めだが、美容に関心の高い利用客を取り込む。
ウエルシアホールディングスは今年3月、東京・浅草の店舗でオリジナルのカレーライスの販売を始めた。ご飯を店内で炊き、工場で作ったルーを温めて提供する。店内には全国各地のレトルトカレー約120種も揃え、希望すればプラス200円(税抜き)で炊いたご飯と福神漬をつけて店内で食べられる。
ウエルシアホールディングスは他にも2019年度末までに弁当・惣菜の取扱店を全約1700店舗のうち600店舗と現状の4倍に拡
大する計画を打ち出しており、コンビニが得意とするサービスに攻め込む戦略は明確だ。
このように攻勢をかけるドラッグストアやネット通販を、コンビニは進化によって突き放すことができるだろうか。筆者は少なくとも効果的な対抗策にはなり得るはずだと思う。コンビニは幾度となく成長の限界を指摘されながら、プライベートブランドの投入、惣菜や店内調理品の充実などお客のニーズをとらえた手を次々に打ちながら変化を遂げ市場を拡大してきた。
そうした変化の拠り所になったのは、ドラッグストアやスーパーをはるかに上回る巨大な店舗網が吸い上げる膨大なお客のデータだった。これまでとは次元が異なるかに見える今回の進化も、実はデータを活用し、お客のニーズに寄り添おうとするこれまでの経営努力の延長に他ならない。
もちろんドラッグストアやネット通販もコンビニに突き放されまいと必死で食らいつき、隙があればコンビニの牙城に攻め込もうとするだろう。
その結果、何が起きるだろうか。
コンビニはお客のニーズをとらえてどこまでも進化していくに違いない。極論すれば私たち消費者が望む姿に進化していくのだ。
もしかしたら近い将来、本格的なバーや居酒屋などの飲食スペースを店内に設けたコンビニ、ネットカフェと融合したコンビニ、ちょっとしたライブエンタテインメントスペースを併設し、音楽や落語などのパフォーマンスを楽しみながら買い物したり飲食したりするコンビニ─などが誕生するかもしれない。
その際には人手不足を補うためのタッチパネルによる注文システムやQRコードを使ったキャッシュレス決済が今以上に切実に求められるようになるだろう。
一方で店頭だけでなく、後方部隊である本部でも、AI(人工知能)を活用したお客のニーズの分析など進化を支えるシステムの高度化が図られるに違いない。
その時は言うまでもなくエンジニアの出番だ。
(2018.7.2)