渋谷和宏の経済ニュース

第15回渋谷和宏の嫌でもわかる経済ニュース

 

ナイトタイムエコノミー─直訳すれば「夜間の経済」あるいは「夜間の経済活動」だ。 この言葉は今、日本が観光立国を実現し、低迷する個人消費を回復するためのキーワードとして企業や自治体から注目されている。

ブロードウェーの経済効果は1兆円超

ニューヨークやロンドン、パリなど欧米の主要都市に行くと、深夜まで音楽ライブや演劇、マジックなどのエンタテインメントを楽しめる「大人の夜遊び」文化が根付いているのに驚かされるのと同時に感心させられる。
欧米ではこうした「大人の夜遊び」文化が外国から観光客を呼び込む魅力の一つとなっている。例えばニューヨークのブロードウェーで深夜11時ごろまで開演されているミュージカルを目当てに、外国やアメリカ各地からやってきた観光客が落とすお金は、観劇やその後の飲食を合わせると年間1兆円超と試算されている。ニューヨークのナイトタイムエコノミーはブロードウェーの経済効果だけで1兆円を超えるのだ。  
では日本の大都市はどうかと言えば、政府は観光立国の実現を掲げ、「2020年に訪日外国人旅行者4000万人の達成」を目標にしているものの、外国人が楽しめる夜のエンタテインメントは欧米の主要都市に比べるとはるかに少ない。  
海外でも頻繁に紹介されるめぼしい夜遊びスポットは、巨大ロボットがダンスを繰り広げる新宿歌舞伎町のショーパブ「ロボットレストラン」や、きゃりーぱみゅぱみゅのライブ演出を手掛けるアートディレクターの増田セバスチャン氏がプロデュースした原宿のレストラン「カワイイモンスターカフェ」くらいしかなく、外国人旅行者は昼には観光に買い物にと忙しくても、夕食後はほとんど時間を持て余しているのが現実だ。  
そんな現状を変え、日本でもナイトタイムエコノミーを盛り上げて訪日外国人旅行者を増やし、個人消費を伸ばそうという動きがようやく盛り上がってきた。

夜も伝統芸能を楽しめる新劇場を
大阪城近くに建設

大阪では今、買い物や食事が中心の大阪観光に新たな価値を加えようという動きが官民一体で進んでいる。  
官民ファンドのクールジャパン機構が吉本興業やエイチ・アイ・エス(HIS)、在阪民放5局など12社と組み、伝統芸能などを夜まで上演する劇場を大阪城周辺に建設するプロジェクトが始まったのだ。  
建設費用は総額約20億円超、2018年春までの開業を目指しており、落語や歌舞伎、音や光を駆使した殺陣や忍者のパフォーマンスも披露する予定だという。  
「年間約250万人が訪れる大阪城にエンタテインメント性が加われば(訪日外国人旅行者の誘致には)鬼に金棒となる」と吉村洋文大阪市長は語る。  
大阪では2017年10月、大阪城天守閣の近くにある歴史的建造物の旧第四師団司令部庁舎(元大阪市立博物館)を改装して、飲食や物販の複合施設「ミライザ大阪城」が開業した。レストランは夜10時まで営業しており、天守閣を眺めながら料理やアルコールを楽しめるスポットとして訪日外国人や日本人観光客で賑わっている。 
新たに劇場を加えることで「大人の夜遊び」スポットをいっそう充実させようと動き出したのだ。  
その大阪ではJTB西日本が9月から始めた「OSAKA NIGHTCLUB PASS」も訪日外国人旅行者の人気を呼んでいる。これは梅田や心斎橋周辺にあるナイトクラブ約10店舗を3日間、自由に出入りできる「3日間限定の夜遊 び定期券」だ。関西国際空港にあるJTB西日本の関西ツーリストインフォメーションセンターなどで販売しており値段は3500円、値ごろ感は十分にあると言えるだろう。  
これらは関西での動きだが、もちろん東京も負けてはいない。サザンオールスターズなどが所属する音楽事務所のアミューズは2017年夏から秋にかけて東京・品川のホテルで「WA!」と題する夜間のショーを開催した。アルゼンチンのパフォーマンス集団による音楽や光、踊りを融合させた70分間のショーで、太鼓など日本文化も組み入れている。最も遅い開演時間は午後8時、チケットは1人7600円からで外国人旅行者を中心に人気を呼んだ。JTBも2017年秋、品川のホテルで和太鼓のショー「万華響」を始めた。狙いはやはり外国人旅行者で、夜の部の開演時間は午後8時半だ。JTBによれば2019年には常設のショーにしたいという。

ナイトタイムエコノミーの利益率が高いわけ

今なぜナイトタイムエコノミーに脚光が当たり始めたのだろうか。  
一言で言えば企業や自治体にとって、訪日外国人旅行者の「大人の夜遊び」が巨大な経済効果を見込めるようになってきたからだ。  
日本政府観光局によれば2016年の訪日外国人は過去最高となる2403万9000人に達した。2017年は2800万人を超えると予測されている。  
このまま伸び続け、2020年に政府が目標とする4000万人を達成した場合、訪日客が滞在中、夜間に1万円多く使っただけで年間4000億円の経済効果が生まれる。10万円ならば何と4兆円、政府が進める幼児教育無償化に必要な財源2兆円の2倍だ。
加えてナイトタイムエコノミーは企業や自治体に大きな利益をもたらしてくれる。クールジャパン機構が吉本興業やエイチ・アイ・エスなどと進めるプロジェクトは新たな劇場を建設するために多額の費用が必要だが、既存のホテルや劇場などを夜間に転用・活用すれば、新たな設備投資は最小限で済む。  
例えばテーマパークのユニバーサル・スタジオ・ジャパンTM(USJ)では昨年、10月末のハロウィーンに向けて夜間のホラーイベントを強化、パーク内を練り歩くゾンビの種類を過去最多に増やして訪日外国人旅行者の誘致に力を入れたが、これらに必要なコストは人件費が中心だ。
 
さらに夜間営業のプールを関西でいち早く始めたホテルニューオータニ大阪では昨年夏、宿泊する外国人旅行者らにナイトプールの利用を促すため、プールサイドでのポールダンスなどのショーを始めたが、こちらも新たな支出はイベント関連費用のみだ。  
となると今後、ナイトタイムエコノミーはますます盛り上がり、ニューヨークやロンドンのような欧米の主要都市に比べても遜色ない「大人の夜遊び」文化が東京や大阪にも根付くのだろうか。

夜間の公共交通の確保どうする?

そうなってくれれば私も嬉しいのだが、ナイトタイムエコノミーが狙い通りの経済効果を上げるためには、東京や大阪には乗り越えなければならない大きな課題がある。夜間の公共 交通機関の確保だ。  
ブロードウェーのあるニューヨークでは周知のように地下鉄が24時間運行している。ロンドンも昨年、週末に限って地下鉄の24時間 運行を開始した。狙いはもちろんナイトタイム エコノミーのテコ入れで、「大人の夜遊び」市場を今後10年かけて今より1割ほど多い4兆円に拡大する計画を打ち出している。  
一方、東京や大阪では深夜はタクシーに頼るしかない。しかもタクシーの運転手は高齢化が進んでおり、今後、人手不足の問題がのしかかる。  
こうした状況を考えれば、いずれ日本でも地下鉄の24時間運行が俎上に載せられるようになるかもしれない。  
またその一方で、自家用車で人を目的地まで運ぶライドシェアの規制緩和も本格的に議論されるに違いない。その際には乗用車で個人を運ぶだけではなく、バスなどで団体客を運ぶサービスも検討されるはずだ。  
ほかにも「夜の街を散策したりお店をはしごしたりするためのシェアサイクル(自転車シェアリング)サービス」や「今、オープンしていて、 かつ空席がある飲食店をリアルタイムで教えるサービス」や「トラブルに巻き込まれた場合の駆け込める場所を本人の位置情報を基に提供するサービス」など「大人の夜遊び」を快適、 安全に楽しめるようなネットビジネスも求められるようになるに違いない。
ナイトタイムエコノミーを定着させるためには、安全で安価な夜間の移動手段や必要な情報をリアルタイムに提供するサービスが欠かせない。  
そして、それらのサービスを実現するためにネットなどの通信やIoT(モノのインターネット)などの技術が当然求められることになるだろう。

shibuya

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